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歴史恋愛戦争

風と共に去りぬGone with the Wind

Margaret Mitchell / アメリカ / 1936年 ・ 読了目安 840分

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「明日は明日の風が吹く」。南北戦争に翻弄された女の、強さと身勝手の物語。

『風と共に去りぬ』のイメージイラスト
『風と共に去りぬ』のイメージ(AIによる生成イラスト)
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主な登場人物

  • スカーレット・オハラタラ農園の地主の娘で、物語の中心人物。戦争と貧困を生き延びるためなら手段を選ばず、三度の結婚を経て材木事業で財を築く。
  • レット・バトラー南部社交界から爪弾きにされた密輸商人で、スカーレットの本質を見抜きながら愛し続ける。彼女の幻想が解けた時にはすでに愛想を尽かしている。
  • アシュリー・ウィルクス旧世界の優雅さを体現する地主の息子で、スカーレットが長年恋い焦がれる相手。メラニーなしでは現実に対処できない、内面の弱さを抱えている。
  • メラニー・ウィルクスアシュリーの妻でスカーレットの従妹。誰に対しても誠実で、死の床でスカーレットにアシュリーの将来を託す。
  • フランク・ケネディスカーレットの二番目の夫となる中年の商人。もとは妹スエレンの婚約者だったが、タラの税金を工面するためスカーレットに略奪される形で結婚する。

あらすじ

あらすじ

南北戦争前夜、ジョージア州の綿花農園タラ。地主ジェラルド・オハラの娘スカーレット・オハラは、隣接する大農園トウェルヴ・オークスの跡取りアシュリー・ウィルクスに恋い焦がれているが、開戦前夜のバーベキューの席でアシュリーが従妹メラニー・ハミルトンと結婚すると知らされる。スカーレットは思いを直接打ち明けるが拒まれ、逆上して皿を投げつけた一部始終を、居合わせたレット・バトラーに目撃されてしまう。傷心のスカーレットは当てつけのようにメラニーの兄チャールズ・ハミルトンと結婚するが、チャールズは入隊後まもなく病死し、スカーレットは十代で未亡人となる。

戦況が悪化し、アトランタは北軍の砲撃と大火に包まれる。身重のメラニーを連れて街を脱出したスカーレットは、焼け跡となったタラに戻るが、母は病死し、父は正気を失いかけ、屋敷には家族と数人の使用人だけが残されていた。飢えと貧困のどん底で、スカーレットは畑に残っていた蕪を握りしめ「絶対に飢えない、神かけて」と誓う。以後の彼女は、家と一族を守るためならどんな手段も辞さない現実主義者へと変貌していく。戦後の南部では旧地主に重い税が課され、タラを守る金の工面に迫られたスカーレットは、妹スエレンの婚約者だった商人フランク・ケネディを彼女に無断で口説き落として結婚し、彼の製材業を引き継いで財を築くが、フランクは治安悪化への報復襲撃に加わって命を落とす。

その後スカーレットは、南部封鎖を掻い潜る密輸で財を成した謎めいた男レット・バトラーと結ばれ、娘ボニーをもうける。レットはボニーを溺愛するが、スカーレットの心はなおアシュリーへの幻想に囚われたままで、噛み合わない夫婦関係にレットは次第に疲れていく。ボニーが落馬事故で死ぬと、深い悲しみの中で二人の溝は決定的なものになる。

そして流産の後遺症で衰弱したメラニーは、死の間際にスカーレットへ「アシュリーを頼む」と言い残す。メラニーを失って初めて、アシュリーが妻なしには何も成し得なかった弱い男に過ぎなかったと悟るスカーレット。十年以上焦がれ続けた恋が実体のない幻影だったと気づいたとき、本当に愛していたのはレットだったと理解するが、その頃にはレットの心はすでに折れ、彼女のもとを去っていく。呆然としながらもスカーレットは顔を上げ、故郷タラの赤い土を思い浮かべる。「明日はタラに帰ろう。そこで考えよう——明日は明日の風が吹く」。

読みどころ

  • ピュリッツァー賞受賞。アメリカで最も売れた小説のひとつ
  • スカーレットの強さと自己中心性は「好きか嫌いか」が読者で真っ二つに割れる
  • 南部の奴隷制を美化するという批判と、女性の主体性を描くという評価が共存

なぜ読み継がれるのか

『風と共に去りぬ』が単なる恋愛叙事詩以上のものとして読み継がれてきた最大の理由は、スカーレットという主人公の造形が「愛される主人公」の枠を意図的に外れている点にある。彼女は嘘をつき、他人の夫を奪い、労働者を安く使い、良心の呵責よりも生存を優先する。それでいて読者は彼女を突き放しきれない。ミッチェルは道徳的に模範的な女性ではなく、崩壊した世界で何としてでも生き延びようとする意志そのものを主人公に据えた。この「好感度とは切り離された生存本能への共感」は、清廉な主人公像に飽きられてきた現代の読者にこそ刺さる仕掛けだろう。

もう一つの軸は、スカーレットが終始追い求め続けたアシュリーという幻想の構造である。物語の大半は、彼女が本当に欲しかったのはアシュリー個人ではなく「アシュリーに象徴される、失われた優雅な旧世界」だったことに気づかないまま進む。メラニーの死によってようやく幻想が解け、同時に本当に自分を理解し支えていたレットの価値に気づくが、その時にはすでに遅い。この構図は、目の前にある現実の関係よりも失われた理想像に固執してしまう人間の心理を容赦なく描いており、恋愛小説としてよりもむしろ認知のすれ違いを描いた作品として読むこともできる。レットとアシュリーという対照的な二人の男は、変化を直視して生き延びようとする者と、失われた過去の秩序に留まろうとする者という普遍的な対立の縮図であり、読者は物語を読みながら自分がどちらに近いかを自然と問われることになる。

一方で本作は、南部プランテーション社会への郷愁と奴隷制の実態とを切り離さずに描いてしまった作品でもある。黒人の登場人物の多くは主人一家に忠実な存在として類型化され、南北戦争と再建期の暴力は南部側の被害として語られる比重が大きい。この点は出版から一世紀近くを経た今、単純に称賛できるものではなく、読み継がれる過程で常に批判と再検討の対象になってきた。つまりこの小説は、女性の主体性を描く先進性と、人種表象における限界とを同じテクストの中に同居させており、その緊張関係そのものが今なお議論を呼び続ける理由になっている。

主な登場人物

スカーレット・オハラ — タラ農園の地主の娘で、物語の中心人物。戦争と貧困を生き延びるためなら手段を選ばず、三度の結婚を経て材木事業で財を築く。

レット・バトラー — 南部社交界から爪弾きにされた密輸商人で、スカーレットの本質を見抜きながら愛し続ける。彼女の幻想が解けた時にはすでに愛想を尽かしている。

アシュリー・ウィルクス — 旧世界の優雅さを体現する地主の息子で、スカーレットが長年恋い焦がれる相手。メラニーなしでは現実に対処できない、内面の弱さを抱えている。

メラニー・ウィルクス — アシュリーの妻でスカーレットの従妹。誰に対しても誠実で、死の床でスカーレットにアシュリーの将来を託す。

フランク・ケネディ — スカーレットの二番目の夫となる中年の商人。もとは妹スエレンの婚約者だったが、タラの税金を工面するためスカーレットに略奪される形で結婚する。

印象的な場面

トウェルヴ・オークスの告白

物語序盤、トウェルヴ・オークスのバーベキューの席でスカーレットはアシュリーに愛を告げるが、彼はメラニーへの気持ちを変えないと告げて去る。逆上したスカーレットが陶器を投げつけて割ると、部屋の隅の長椅子で昼寝をしていたレット・バトラーが起き上がり、一部始終を見ていたことを告げる。この日は男たちが南軍への入隊を語り合う開戦前夜でもあり、一つの恋の破局と一つの国の運命の分岐点が、同じ午後の同じ屋敷に重なっている。この場面が効くのは、物語全体の力学がここで先に提示されてしまう点にもある。アシュリーへの片思いという「見えている物語」と、レットがスカーレットの本性を最初から見抜いているという「隠れた物語」が同時に始まり、読者は以後ずっと二つの物語の落差を意識しながら読み進めることになる。

「絶対に飢えない」の誓い

北軍によって焼かれたタラに戻ったスカーレットは、荒れた畑に唯一残っていた蕪を引き抜いて口にし、吐き気を堪えながら空に向かって誓う。二度と飢えず、盗みでも殺しでも何でもして家族を守るという誓いである。この場面が印象的なのは、それまで舞踏会と恋の駆け引きに興じていた温室育ちの少女が、ここで初めて自らの手で土を耕す生活者としての顔を持つからだ。かつて宝石よりも大切にされていた白い手は、以後の畑仕事と事業の交渉によって酷使されていく。以後の彼女の非情さや打算は、この土にまみれた瞬間から地続きに描かれており、読者は彼女の後の行動を単なる強欲としてではなく、飢餓の記憶に裏打ちされた恐怖として理解することになる。

明日は明日の風が吹く

物語の最後、レットが去った後スカーレットは絶望に沈みかけるが、故郷タラの土を思い浮かべた瞬間に顔を上げる。レットを取り戻す方法は今はわからないが、タラに帰れば何か考えつくはずだという結末は、恋愛の決着をつけないまま幕を引く点で異例である。この場面はまた、物語を通じて求められる側であり続けたスカーレットが、初めて自分から求める側に回るという力関係の逆転を印象づけてもいる。この場面が効くのは、スカーレットという人物の一貫性を最後まで裏切らないからだ。彼女は最後まで感傷に溺れることなく、次に何をすべきかという実務的な問いに帰着する。ロマンス小説の結末としては不完全に見えるが、生存を主題とする物語としては、これ以上ないほど正しい着地点になっている。

読後の1冊

戦争という巨大な歴史のうねりの中で個人の運命が翻弄される物語をもっと読みたいなら、戦争と平和がある。ナポレオン戦争下のロシア貴族社会を描き、時代のスケールでは本作に匹敵するし、民間人の暮らしが戦火によって根こそぎ変わっていく様を描く点でも共通している。

社会の作法や体面が個人の欲望を縛る様を描いた小説としては、無垢の時代が近い。舞台はニューヨークの上流階級だが、崩れゆく旧世界の価値観に最後までしがみつく人物という点で、アシュリーの造形と通じるものがある。

自分の欲望に忠実に生きた女性が周囲の規範と衝突していく物語には、アンナ・カレーニナを薦めたい。スカーレットとは正反対の結末を辿るが、時代の枠組みに抗おうとした女性を描く小説として並べて読む価値がある。

ONE MORE CLASSIC

読後の1冊

物語の余韻を、次の名作へつなげるための選書です。

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