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SFゴシック哲学

フランケンシュタインFrankenstein

Mary Shelley / イギリス / 1818年 ・ 読了目安 200分

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「怪物」を作ったのは科学者だが、怪物を生んだのは人間の拒絶だった。

『フランケンシュタイン』のイメージイラスト
『フランケンシュタイン』のイメージ(AIによる生成イラスト)
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主な登場人物

  • ヴィクター・フランケンシュタインジュネーヴの名家に生まれた科学者。生命の創造という禁忌に挑んで成功するが、被造物への責任を放棄したことで自らも大切な人々も破滅へと導く。
  • 被造物ヴィクターが死体から作り出した人造人間で、固有の名は与えられていない。独学で言語と教養を身につける知性を持ちながら、外見ゆえに人間社会から排除され続け、復讐者へと変わっていく。
  • ロバート・ウォルトン北極探検に情熱を燃やす船長。氷上で瀕死のヴィクターを救助し、彼への手紙という形式が物語全体を包む語りの枠組みになっている。
  • エリザベス・ラヴェンザヴィクターの幼少期からの婚約者で、フランケンシュタイン家に引き取られて育った女性。結婚式の夜、被造物の凶行の犠牲となる。
  • アンリ・クレルヴァルヴィクターの親友。研究にのめり込む彼を案じながら支え続けるが、被造物の復讐に巻き込まれ命を落とす。
  • ジュスティーヌ・モリッツフランケンシュタイン家に仕える女中。ウィリアム殺害の罪を着せられ、無実のまま処刑される悲劇の人物。

あらすじ

あらすじ(ネタバレあり)

物語の外枠には、北極探検を志すロバート・ウォルトンが妹マーガレットに宛てた手紙がある。氷に閉ざされた海で衰弱しきった一人の男を救助したウォルトンは、その男から数奇な半生を聞き取ることになる。語り手の名はヴィクター・フランケンシュタイン。彼の告白がそのまま作品の本体をなす構造になっている。

ジュネーヴの名家に生まれたヴィクターは、幼くして母を熱病で亡くした経験もあってか、化学と生理学に没頭してインゴルシュタットの大学で学ぶうちに、生命を人工的に作り出し死を克服する方法に取り憑かれていく。墓地や解剖室から集めた人体の部位を組み合わせ、ある嵐の夜、ついに被造物に生命を与えることに成功する。しかし目を開けたその顔の醜さにヴィクターは耐えられず、自らの手で創造したものを見捨てて部屋を飛び出してしまう。

一人残された被造物(作中で固有の名は与えられない)は、森をさまよいながら独力で言語と社会を学んでいく。貧しい一家の暮らしを物陰から見つめて言葉を覚え、たまたま拾った鞄の中の書物から人間の歴史や感情、善悪の観念を知り、繊細な心を持つ存在へと育つ。しかし出会う人間はことごとく彼の外見に恐怖し、石を投げ、追い払う。唯一心を開きかけた盲目の老人の家族にさえ、姿を見られた途端に暴力で拒絶される。

人間社会への希望を断たれた被造物は、怒りと絶望のうちにヴィクターへの復讐を誓う。ヴィクターの幼い弟ウィリアムを殺害し、その罪を無実の女中ジュスティーヌになすりつける。ジュスティーヌは裁判で有罪とされ、無実のまま処刑されてしまう。真実を知りながらヴィクターは信じてもらえないことを恐れて沈黙を守り、その後悔を抱えたまま生きることになる。被造物はやがてヴィクターの前に姿を現し、「自分と同じ姿の女を作ってくれれば、人間社会から離れて二人だけで生きる」と要求する。

ヴィクターは一度は要求を受け入れ、遠く離れた島で女の被造物を作り始めるが、「悪の種族が増えるかもしれない」という恐怖に耐えきれず、完成間近でそれを破壊してしまう。激怒した被造物は復讐を宣言し、ヴィクターの親友クレルヴァルを殺害する。さらに結婚したばかりのヴィクターのもとを訪れ、初夜の晩に花嫁エリザベスを殺す。相次ぐ喪失にヴィクターの父も命を落とす。すべてを失ったヴィクターは被造物を追って北極圏まで達するが、力尽きて命を落とす。その死の床に姿を現した被造物は亡骸の前で慟哭し、自らの罪と孤独を語ったのち、氷原の闇へと消えていく。

読みどころ

  • 21歳の女性が書いたSFの原点にして最高傑作のひとつ
  • 「怪物」への同情が物語を通じて高まる構造——真の怪物は誰か
  • 科学と創造の倫理、親と子の責任を問う現代にも生きる問い

なぜ読み継がれるのか

『フランケンシュタイン』が繰り返し読まれる理由は、単に「科学の暴走を戒める物語」だからではない。むしろこの作品の核心は、ヴィクターの罪が「生命を作ったこと」ではなく「作ったものを見捨てたこと」にある点だ。彼は被造物に生命を与えた瞬間、最も濃密な責任を負う立場になったにもかかわらず、外見への嫌悪感だけを理由に育児放棄にも似た形でその場を去ってしまう。この構図は、強力な技術を世に送り出しながら、その後の運用や副作用に責任を持とうとしない現代の作り手のあり方と驚くほど重なる。作品が問うているのは創造それ自体の是非ではなく、創造した後にどう向き合い、何を引き受けるのかという一点なのである。

もう一つの核心は、読者の同情が物語を通じて少しずつ移動していく構造そのものにある。被造物は誕生時点では悪意を持たない。むしろ美しい自然に感動し、他者の幸福を喜び、恩を返そうとする素朴な善性を持った存在として描かれる。それが暴力へと転じるのは、出会うすべての人間に外見だけで拒絶され続けた末のことだ。読者は被造物自身の語りを通して、彼を怪物に変えたのが誰なのかを否応なく突きつけられる。生まれつきの悪などというものは存在せず、恐怖と排除がその対象を本当に危険な存在へと作り変えてしまうという逆説は、外見や属性による分断が繰り返される現代においてもまったく古びていない。被造物が求めていたのは復讐そのものではなく、最初のわずかな受容だったという読み方をすれば、この物語の悲劇性はいっそう重く迫ってくる。

さらにこの小説は、ウォルトンの手紙、ヴィクターの告白、その中に埋め込まれた被造物自身の語りという三重の入れ子構造を取っている点も見逃せない。三人の語り手はそれぞれ自分の正当性を主張する立場にあり、どの証言も無条件には信頼できない。作者は唯一の正しい視点を用意せず、判断を読者自身に委ねている。二百年以上前に書かれた作品でありながら、単純な勧善懲悪に落ち着かないこの構えこそが、今なお多くの解釈と議論を呼び続ける理由になっている。

創造者と被造物、親と子という関係の比喩として読めることも見逃せない。ヴィクターは被造物を育てず、名前すら与えず、対話の機会すら持とうとしなかった。被造物が繰り返し訴えるのは復讐の正当性である以上に、「なぜ自分を見捨てたのか」という問いにほかならない。技術や制度が急速に生み出されては十分な検証もないまま社会に放たれる時代において、この問いは一篇の科学小説の枠を超えて響き続けている。

主な登場人物

  • ヴィクター・フランケンシュタイン — ジュネーヴの名家に生まれた科学者。生命の創造という禁忌に挑んで成功するが、被造物への責任を放棄したことで自らも大切な人々も破滅へと導く。
  • 被造物 — ヴィクターが死体から作り出した人造人間で、固有の名は与えられていない。独学で言語と教養を身につける知性を持ちながら、外見ゆえに人間社会から排除され続け、復讐者へと変わっていく。
  • ロバート・ウォルトン — 北極探検に情熱を燃やす船長。氷上で瀕死のヴィクターを救助し、彼への手紙という形式が物語全体を包む語りの枠組みになっている。
  • エリザベス・ラヴェンザ — ヴィクターの幼少期からの婚約者で、フランケンシュタイン家に引き取られて育った女性。結婚式の夜、被造物の凶行の犠牲となる。
  • アンリ・クレルヴァル — ヴィクターの親友。研究にのめり込む彼を案じながら支え続けるが、被造物の復讐に巻き込まれ命を落とす。
  • ジュスティーヌ・モリッツ — フランケンシュタイン家に仕える女中。ウィリアム殺害の罪を着せられ、無実のまま処刑される悲劇の人物。

印象的な場面

生命が宿る瞬間

深夜の実験室で、ヴィクターが集めた死体の部位が動き出し、被造物が目を開ける場面である。長い年月をかけて追い求めた成功が、達成された瞬間にそのまま恐怖へと反転する落差がこの小説の出発点になっている。ヴィクターはそれまで「生命を作り出す」という目的だけを見つめ、完成した後にその存在とどう関わっていくかをまるで考えていなかった。目の前で実際に動き、こちらに向かって手を伸ばしてくる被造物を見た途端、彼は理性を失い部屋から逃げ出してしまう。この場面が効くのは、怪物そのものの恐ろしさではなく、創造主が自分の作ったものから顔を背けて逃げるという行為の身勝手さが、読者にまっすぐ突き刺さるからだ。読者はこの最初の数ページで、誰に感情移入すべきかをすでに揺さぶられることになる。

ド・ラシー家からの拒絶

被造物は森の小屋に身を潜め、貧しいド・ラシー一家の暮らしを長期間にわたって物陰から見つめ続け、言葉と感情、そして人としての礼節を独学で身につけていく。目の見えない老人だけがいる時を選んで小屋を訪ね、初めて人間らしい会話を交わすことに成功する場面は、この物語で被造物に許された唯一の穏やかな時間である。しかし老人の息子や娘が帰宅し、その姿を目にした瞬間、すべては暴力によって断ち切られる。積み上げてきた言葉も、示してきた誠実さも、外見という一点だけで無に帰してしまう。この場面が痛切なのは、被造物の努力や善意が読者にはすでに十分に伝わっているからこそ、それが一顧だにされない理不尽さが際立つからであり、この直後から彼の人格が復讐者へと傾いていく転換点にもなっている。

北極の氷上での別れ

物語の最後、ウォルトンの船上でヴィクターが息を引き取った直後、被造物がその亡骸のもとに姿を現す。復讐を果たし終えたはずの被造物は、勝利の代わりに深い後悔と孤独を語り、自らの罪を認めたうえで、氷原の彼方へ姿を消していくと告げる。憎み合ってきた創造主と被造物が、最後には互いにしか分かり合えない孤独を共有する存在として並べられるこの結末は、単純な勧善懲悪では終わらない。誰が加害者で誰が被害者かという単純な図式を最後の最後で崩し、読者の中に割り切れない余韻を残す構成になっている。

読後の1冊

創造と倫理という主題をさらに掘り下げたいならすばらしい新世界を薦めたい。科学によって管理された社会の中で人間性がどう変質するかを描いており、生命操作への視座を別角度から補ってくれる。知識と力を追い求めた末に破滅へ向かう主人公という構図を味わい直したいならファウストが近い読み味を持つ。そして、外見と内面の乖離という主題に惹かれたならドリアン・グレイの肖像も併せて読む価値がある。醜さと美しさ、罪と姿がどう結びつくかという問いを、まったく異なる角度から描いた一作である。

ONE MORE CLASSIC

読後の1冊

物語の余韻を、次の名作へつなげるための選書です。

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